“当たり前”に価値を見出したブランディング

有限会社サガ・ビネガー

創業1832年創業以来、右近酢を醸造しているサガビネガー。強みである百八十日静置発酵法を用いて、農作物を発酵して造る酢が種類豊富に揃い、好評を博しています。右近常務が自社のブランディングに向けた取り組みとして、ラベルデザインを手掛けるデザイナー鷹巣さんとの協業事例を紹介します。

Profile

天保3(1832)年に「右近酢」として創業。伝統的な製法「静置発酵法」で醸造酢を製造している。

有限会社サガ・ビネガー

常務取締役  右近 諭志

佐賀県佐賀市嘉瀬町大字中原1969-3

TEL.0952-23-6263

Interview

デザインへの意識が薄かった時代

2010年当時、自社商品のラベルは大手メーカーを真似て印刷会社に発注していたので、全く統一感がありませんでした。ラベルデザインをそこまで重視していなかったし、そもそもデザイナーに依頼するという発想がありませんでした。
そんな中、OEM商品(他社商品を代行で製造する商品)と自社商品の売上比が7:3と、自社商品が低調になり、このままで本当にいいのかなと少し不安も感じてました。

デザイナーとの話し合いの中で気づいた自分たちの価値

その後、ラベルデザインを変更するために、デザイナーに発注しましたが、弊社とデザイナーとの意見が合わず、しっくりこなくて悩んでいました。その解決のために相談に行った「佐賀よろず支援拠点」で出会ったのが鷹巣さんでした。
鷹巣さんとは、多い時には週2回ほど会って、いろんな相談や話をしましたが、話をしていくうちに、当時のラベルが統一感に欠けているだけでなく、社名・ブランド名・ロゴすら入っていないこと、そしてデザインの方向性にも問題があることがわかりました。私個人としては、大手メーカーのような色とりどりのデザインが良いと思っていたのですが、鷹巣さんからは、大手と同じことをするより、サガ・ビネガーならではの個性を出した方が良いとのアドバイスがありました。

そこで、「時間をかける贅沢なお酢」をコンセプトに、創業以来の伝統的な製法「百八十日静置発酵法※」をしっかりアピールするよう方針転換し、歴史や伝統を前面に出すために「右近酢」の名前も打ち出していくことになりました。
意外だったのは、私たちにとって、当たり前だと思っていた、お酢の製造方法に着目した点です。また、老舗が多い酢造りの業界なので、「伝統が売りになる」とは考えておらず、デザイナーの視点から多くの気づきを得ることができました。
こうして、ロゴと伝統製法の「百八十日静置発酵法」の文字を入れ、歴史を前面に出す「右近酢」の社名もシリーズごとに印字するなどして、デザインに統一感を持たせました。
そのほか、看板、のぼり旗、パンフレット、直売所の設置においても、鷹巣さんのアドバイスで、伝統を打ち出すイメージに変更し、また、消費者ニーズに合った300mLの小ぶりなサイズも展開することにしました。
※百八十日静置発酵法とは:180日かけてゆっくり醸造してつくるお酢の伝統製法

デザインがもたらした変化

パッケージデザインの変更やサイズ展開によって、商談会でのバイヤーさんの反応が大きく変わりました。以前は具体的な話にまで進まないことが多かったのですが、今では「ギフト用にこういうものを作れませんか?」といった相談を受けることも多く、販路が拡大しフランスなどへの海外展開にもつながりました。
デザインを取り入れ変化をもたらした事で、若い人にも売れるようになり、メディアにも取り上げられるようになって、OEMと自社製品の売上比も7:3から4:6へと逆転しました。自社製品の売上が伸びたことで利益率も大きく向上したので、生産量増加にも対応できるよう、新たに撹拌機も自作し導入しました。
ラベルをはじめ、さまざまなものを劇的に変えていく過程で、社内での軋轢や衝突が起こり、一時的に我慢が必要な時もありましたが、徹底的に会社の変革に取り組み、社長や社員の理解を得ていきました。
何につけ、鷹巣さんの協力を得てきたので、近くに相談できるデザイナーがいるっていうのは心強かったですね。
今後は、農作物の病害虫予防など、酢の可能性について、新しい提案を考えていきたいと考えています。

デザイン活用を検討している事業者さんへのメッセージ

第一に大切なことは、「良いもの」を作り続けること。でも作るだけじゃ売れるとは限らない。「良い売り方や価値の伝え方」を知っているプロのデザイナーとの協業があって、やっと世間に知ってもらえるんですよね。
売り上げを伸ばしたいなら、とにかく動くこと、一度、デザイナーのところに行くべきですね。「佐賀よろず支援拠点」でもいいですし、デザイナーと話をしてみると、意外なところにヒントがあるかもしれないし、自分たちが気づかない問題とか、戦略とか、引き出してくれると思いますよ。

Designer依頼したデザイナー

黒髪企画室株式会社 鷹巣 翼さん

代表取締役 ディレクター / デザイナー

福岡の広告制作会社、大阪のパッケージ制作会社を経て2011年に故郷の武雄市へ戻りKUROKAMI graphicを開業。
2018年に黒髪企画室株式会社設立。
広告デザインとパッケージデザインの経験を活かし、商品をどのように誰に伝えるか計画するコンセプト設計から、そのコンセプトに基づいたデザインを一貫して制作。また、デザイン制作だけでなく 【いろえ工房「喫茶室」(武雄市)】のプロデュース・ 店舗運営、【佐賀県 「さが健康維新県民運動」】【CAMP TECHINICAR(伊万里市)】【桜井こけし(宮城県)】などの統括ディレクションも担当。